視覚支援ツールとしてタブレットを活用! 勉強だけにとどまらないデバイスの可能性

鹿児島県立鹿児島盲学校

業種
学校・教育委員会
導入規模
50台未満
OS
iPadOS

mobiconnectで実現したこと

  1. Point01

    デジタル教科書で授業の幅が広がった

  2. Point02

    アプリを使って生徒ひとりひとりにあわせたサポートができる

  3. Point03

    アナログだった視力測定にデジタル要素が加わり利便性が向上した

鹿児島県立鹿児島盲学校は、視覚障害教育を行う特別支援学校です。小学生の年代から40代までの、全校生徒25名が学んでいます。2023年度で創立121年目を迎える同校では、タブレット端末を導入し『mobiconnect』によって運用しています。

生徒の特性にあわせてタブレットを活用

鹿児島盲学校では、必要に応じて運用権限を変更しながらタブレットを活用しています。具体的に、どういった場面で活用しているのか、永峯教諭にお伺いしました。

永峯 教諭
― 本校は視覚障害のある児童や生徒が通う学校です。視覚障害の程度はさまざまで、明るい場所が苦手な児童もいれば、暗い場所が得意でない生徒もいます。ほかの特別支援学校と比較すると生徒数が少ない分、授業の進度や内容をひとりひとりにあわせて手厚くサポートしているのが特徴です。

タブレット端末の運用に関する権限は、教育委員会からある程度与えられています。例えばアプリの配信やセキュリティポリシーの変更は、学校の裁量で可能です。現場で必要とする設定の追加・変更に対応しやすい体制になっていると感じます。不明点が生じた際には、ICT支援員に相談して解決しています。相談する内容にもよりますが、迅速に対応していただけるのでとてもありがたいです。

視覚支援ツールのひとつとしてのタブレット

鹿児島盲学校の授業では、弱視の生徒は拡大教科書、全盲の生徒は点字教科書を使用しています。ただし生徒によっては拡大教科書でも見えにくいケースがあり、その場合は別の視覚支援機器を使って対応していました。そこでiPadを導入したことにより、視覚支援の面で効果を感じているそうです。

永峯 教諭
― タブレット導入後はデジタル教科書を併用しています。タブレットを指で操作するだけで拡大できるので、生徒によってはほかの視覚支援機器を使わなくても見えるようになります。

またiPadは基本機能(アクセシビリティ)で、ディスプレイの色の反転や文字サイズの調整が可能です。生徒によって目の見え方は異なるので、特性にあわせて使いやすくカスタマイズできる点は良いと感じます。

タブレットの使い方は教科の特徴によっても変わるといいます。

永峯 教諭
― 使用するアプリや機能は、教科の特徴にあわせて使い分けます。私が担当する数学の授業では、アプリを導入して立体をさまざまな視点から見られるようにしています。実物があっても良いですが、画面上で縮尺を変えながら視点を動かせるのは便利です。ほかにも数値を入力するとグラフをかくことができるアプリを使っていて、生徒の手元で操作できるように工夫しています。

授業によって内容が異なるため、タブレットをどのように活用するかは各教科担当の先生に検討してもらう必要があります。そこで、タブレットを活用する方法について先生同士で情報共有する機会を設けているそうです。

永峯 教諭
ー 学校としてはタブレット活用を推進したい部分もありますが、いきなり「授業で使ってください」と先生に伝えても浸透させるのは難しいです。本校では、タブレットの使い方に関する情報共有の一環として、ほかの先生の授業を見学する機会を設けています。各先生にタブレットを活用してもらうためには、利便性や有用性が伝わることが重要です。まったく同じような使い方はできなくても、自分の教科に生かすヒントが見つかる場になればと考えています。

授業にタブレットを取り入れた先生方からは「デジタル教科書」が好評だといいます。デジタル教科書のアプリに含まれている読み上げ機能は、ある程度正確に読んでくれます。一方で、iPadの読み上げ機能(ボイスオーバー)の活用にはまだ課題があり、不具合を専門部会に報告するなど、改良を重ねている段階です。

永峯 教諭
― とくに使いやすいとの意見が上がるのはデジタル教科書です。例えば音楽の場合、通常は教科書を使いながら先生がCDを操作して授業を進めます。タブレットは教科書と音を鳴らす機能を一体化できるので、使い勝手が良いようです。本校は特別支援学校のなかでも教科書を使って学習する機会が多いので、デジタル教科書で便利になる部分は積極的に活用してもらいたいと考えています。

しかし、iPadの読み上げ機能(ボイスオーバー)を授業に活用するのは、まだハードルが高い印象です。例えば辞書をボイスオーバーで読み上げる場合、種類によっては中途半端な箇所で区切られ、聞き取りが難しい場合があります。本校にはマッサージを勉強している生徒もいますが、ボイスオーバーは専門用語の読み上げにほとんど対応できません。読み上げの精度が向上すれば、さらに授業に活用しやすくなるでしょう。

座学だけにとどまらないデバイス活用の可能性

直近の取り組みでは、簡易視力検査でタブレットの活用を進めているそうです。従来の視力検査では、文字の書かれた紙を動かしながら「どの距離で見えるようになるか」「どの範囲は見えづらいか」などで測定していましたが、タブレットの専用アプリを使うことで、端末の位置を固定したまま画面上だけで読みやすい文字の大きさや読書速度が検査できるようになりました。

永峯 教諭
― 視覚障害の視力検査では、視力だけでなく視野など複数の項目が検査の対象です。タブレットの専用アプリを使えば読みやすい文字の大きさや読書速度の結果をデータとして出してくれるので、使い勝手が良くなりました。

また、本校ではほかの学校で見えずらさがあると思われる生徒さんを訪問する「巡回相談」を実施しています。巡回相談では面談のほか、簡易的な視力検査を行います。すべての項目を検査するためにはたくさんの機材が必要ですが、タブレットだけで簡易検査ができるようになれば、検査の負担軽減につながるでしょう。

鹿児島盲学校では、外を歩く練習(歩行訓練)を授業に取り入れています。視覚支援器具のひとつである白杖(はくじょう)は、手に持つ白く細長い棒で、障害物の回避や壁までの距離の測定などに使います。白杖と併用されるのがナビアプリです。視覚障害者のなかにはSiriやボイスオーバーを使ってナビアプリを起動し、自分の位置情報を確認しながら目的地を目指す方もいます。

永峯 教諭
ー 歩行訓練においては、タブレットの活用に課題が残るのが現状です。移動中にナビアプリを操作する場合、タブレットを使うためには一度白杖を置く必要があるからです。タブレットを取り出し、操作したあとに白状を持ち直す手順は、どうしても負担になってしまいます。タブレットを首からぶら下げるよりは、スマホのサイズまで小型化するとさらに活用の幅が広がると感じます。

生徒全員が小さい頃からプライベートのスマホを持っているわけではありませんが、学校以外の場所や、今後持つであろうスマホを学校で利用することにより、将来不自由なく使えるようになると良いと思っています。学校の授業で練習ができたら、学校以外でも安心して持ち歩けるようになると思います。小型化・軽量化は今後の展望に期待しています。

検証・改善を繰り返し、よりよい教育の提供へ

タブレット活用に力を入れている鹿児島盲学校ですが、いくつか課題があるそうです。具体的にどういった改善策を求めているのか、より効果的な活用方法について望んでいることをお伺いしました。

永峯 教諭
― 小型化に加えて、端末の容量をどれくらい大きくできるかは検討の余地があります。アプリや写真、動画を授業で使うので、タブレットの容量は一定数を確保しておかなければなりません。容量がいっぱいになると、OSのアップデートができなくなるなどの問題も生じます。導入時期によって異なりますが、1番容量の少ない端末は16GBなので、やや足りていない状況です。生徒が授業に取り組むにあたって写真や動画の保存は必要になるので、容量に余裕が生まれると使いやすさは向上するでしょう。mobiconnectと相談しながら、生徒によりよい教育を提供できる方法を探していきたいと考えています。

( 取材日:2023年10月 )