「世界でもっともタブレットを活用する支援学校」を本気でめざす! ICT環境で子どもの特性に合わせたオーダーメイドのカリキュラムを作成

大阪府立思斉支援学校

業種
学校・教育委員会
導入規模
50台未満
OS
iPadOS

mobiconnectで実現したこと

  1. Point01

    運用をソフトバンクに業務委託し、ICT環境で起こる問題の防止と早期解決を図る

  2. Point02

    子どもの特性に合わせたカリキュラムの構築が、独自のMDM(mobiconnect)の導入で実現

  3. Point03

    業務改善を優先して取り組み、教職員側がスキルセットを学ぶ時間を捻出する

目次:

大阪府立思斉支援学校は、「明日も行きたいと思う学校」を教育目標に掲げる、昭和15年設立の日本でもっとも歴史のある知的障がいのある児童生徒対象にした支援学校です。 同校では、2022年に「日本でもっともタブレットを活用している支援学校」をめざす、「思斉支援学校レインボープロジェクト」をソフトバンク株式会社の支援の元で立ち上げました。2023年7月から高等部1年生39名に対して学校独自でiPadを導入、「mobiconnect」による運用を実施しています。

右から:大阪府立思斉支援学校
吉田 新 先生(教諭) / 村上 忠吉 先生(首席) / 紙野 泰彦 先生(教頭) / 酒井 康次 先生(教諭)
左:ソフトバンク株式会社 公共事業推進本部 第一事業統括部 教育ICT推進部 事業支援課 松本 勇二郎

子どもに合わせた運用をめざして学校独自でICT環境を導入する

レインボープロジェクトをスタートするきっかけは、文部科学省の「GIGAスクール構想」が始まり、大阪府より生徒1名に1台iPadが配付されたことからです。

紙野 教頭
ー 大阪府からiPadが配付されたものの、それをどのようにうまく使っていけるかよくわからない。教員でさまざまなアイデアを出して考えたのですが、結局煮詰まってしまい話が進まない。やはり専門家に意見を聞いた方がよいのではないかとなり、ソフトバンクさんに委託する形で進めると決まりました。

松本
― 学校が持っている「端末使用時の課題をどう解決するか?」といった相談が当社にあり、私がコンサルティングという形で入ることとなりました。そのプロジェクトを「レインボープロジェクト」という形でスタートさせたのが始まりです。

運用を進めるにあたり、大阪府から配付されたiPadは支援学校では使いにくい部分が見えてきました。

紙野 教頭
― 当校へ通う生徒には、個別最適の学習が求められます。しかし、大阪府のiPadでは府全体で認められたアプリしか使えません。新しいアプリを使いたい際は大阪府へ申請するのですが、中に入れられるアプリの数は決まっています。当校の生徒1人が使うから新たにアプリを入れてくれというのは、基本的に受け付けてもらえないんですね。

個人の特性に合わせたアプリを使って、子どもに120%iPadを活用してもらいたい。その問題をクリアする方法として、学校独自でiPad手配・MDM導入といった選択肢を取ったそうです。

紙野 教頭
ー 障がいのある子どもが学校に通う際に使える、「就学奨励費」という補助金制度があるんです。その中に高等部を対象にした「ICT機器購入費」という、金額の上限はあるものの、毎年使える補助金があります。それを使って、端末を独自の予算で購入したり、それを管理するMDMを導入したりと、いろんなことをやってみようと。そこで、高等部の1年生からスタートしました。

mobiconnectの利用で子どもの特性に応じたアプリの活用が可能となる

2023年7月より学校独自で手配したiPadとmobiconnectの運用を開始、現在のところはうまく進められています(上の画像はmobiconnectのアプリ配信カタログ機能「mobiAppsオンデマンド」の画面)

紙野 教頭
― 今回、高等部1年生に配付するiPadは個人の教材費を使って購入するので、卒業時には自分のものになります。小学部・中学部の間は大阪府から配付されたiPadを使い、小学部ではiPadに触れる「楽しさ」、中学部で「アプリ操作」や「具体的な使い方」を学んで身につけてもらう。そして高等部に進学する際には、自分のiPadでアプリを自由に使えるようになってもらおうというわけです。

酒井 教諭
― 高等部の1年生といっても、さまざまな発達段階の生徒が幅広く在籍しています。たとえば、声を出して話すことが難しい生徒にはVOCA(音声ソフト)をインストールするといった、全員を網羅するというよりも個人の特性に合わせたアプリの使用が多いです。当校単独でMDMを運用することで、学校独自でアプリを自由に選定できてmobiAppsオンデマンドのカタログをカスタマイズできるので、非常に便利ですし満足しています。設定でわからない部分があっても、mobiconnectのサポートへ連絡したらすぐに的確な返信が来て、早期解決するのも本当にありがたいところです。

個人用としてのiPad配付は、学習面だけではない想定外の効果も見られたそうです。

酒井 教諭
― 子どもが端末をものすごく丁寧に扱うようになりました。端末を配付する際に、卒業時に自分のものになるという話からスタートしているので、本当に大切に扱っています。生徒によっては、自分の持ち物の管理が十分にできない子どももいます。そういった子たちも、自分の端末は大切にしようとしているのが見えるようになりました。運用を始めてから、破損や汚損といったトラブルはこれまで一度もありません。

教職員の業務に対する意識改革がICT導入には重要となる

松本氏は、ICTを学校へ導入するには教職員の業務に対する意識改革が非常に重要だと話します。

松本
ー ICTを導入する際は、授業でどのように使うかという部分に焦点が当たりがちです。しかし、授業で使用するためには先生方がスキルセットを学ぶ時間が必要なはずです。その時間をつくるためには、業務をいかにコンパクトにするかにかかっていると私は考えています。業務のコンパクト化は闇雲に進めるのではなく、小さなステップを積み重ねて一つひとつ解決していくイメージです。

レインボープロジェクトでは、いくつかのワーキンググループを組んで、短期目標を達成させるためのタスク管理を徹底しているそうです。

紙野 教頭
― 教職員もiPadを使うようになるわけですが、最初はデータの共有方法もわからない状態からスタートしました。最初は1台1台AirDropで教職員160名分のiPadにデータを落としていたくらいです(笑)。

現在では、Googleドライブとチャットの利用で職員会議が進められるまでに業務改革が進みました。

紙野 教頭
ー 職員会議は時間が決められている上に議題がとても多いため、議論が白熱することはほとんどありませんでした。しかし、スプレッドシートを一定期間置いておき、意見がある人は書き込んでいこうという方法に変えたところ、活発に意見が出るようになりました。また、いつでも書き込みができるので、職員会議で先生方を拘束する必要もなくなる。現在では、事務連絡はすべてチャットとスプレッドシートで済ませ、コアな部分だけフェイストゥフェイスで打ち合わせするという形になりました。

学校現場は、授業の進め方や取り組み方法などで教師個人を優先する文化があるためか、共有という考え方があまりないところです。今後は、『1人ではできない部分が出た場合にみんなで共有して進めるにはどうすればよいか』、そこをテーマとして考えていこうとしています。

吉田 教諭
― 始めに、物品を借りるのにもいちいちファイルに手書きするといった管理方法を変えたくて、管理表を電子化して端末で共有化しました。こういったことが当たり前になる文化を、学校につくっていきたいと考えています。

松本 氏
― 最終的にはすべてシステム化したいのですが、一気に変えると反発が出ることも考えられます。そこで、ストレスの少ない部分から徐々に始めていくといった工夫をしています。

ソフトバンク社の後押しでスピード感のある導入が進められている

現在の状態に至るまで、プロジェクト発足からわずか1年数ヶ月。これだけのスピード感をもってICT導入が進んでいるのは、松本氏の功績が大きいと話されます。

紙野 教頭
ー 教員の業務に日々追われる中で、校内のICT化を進めましょうというのは、実際に一仕事増えているわけで面倒なんです。そこに松本さんが入ることで、「やらなあかんな」となる。そして、一般社会ではこういう流れが当たり前で、学校現場は取り残されているのだと発破をかけられている。やっている内容は何も間違ってないし、スピード感をもって進められているのは松本さんがいてもらえるからこそですね。

村上 教諭
― 最初は、iPadなんて使えないと拒否反応を示す教職員が多かった。しかし、強い意志をもってレインボープロジェクトを進める中で、スプレッドシートやドライブも知らなかった教職員も、iPadを普段使いしてくれるようになったのがわかりました。詳しくなかった校長先生が、他校の先生に当校のやり方を説明している姿を見て、「ここまで来たか、当校も変わったなあ」と実感できましたね(笑)。

紙野 教頭
― 校長先生は、我々の取り組みについて全幅の信頼を寄せてくださっています。個人情報や機密情報の保護といった、絶対に守らなければならない部分以外については、取り組みを止められたことがありません。校長先生が「いける、やれ、責任は俺が取る」とおっしゃってくれる元でプロジェクトを進められるのは、本当にメリットが大きいです。

「学校のICT化を進めるには普通の学校の方がかえって難しいのではないか」とも、紙野教頭は考えているそうです。

紙野 教頭
ー こういった取り組みは、個別最適が最優先される支援学校だからこそ、強みをもって進められると感じています。一般の学校ではカリキュラムに沿って学習を進めるのが普通ですが、当校では子どもの特性に合わせた、フルオーダーメイドのカリキュラムが最優先されます。子どもたち個人に合わせるために学校がICT化を進め、iPadでカリキュラムを組む形は、支援学校の方が合うのではないかと思いますね。

日本一とはいわず「世界一タブレットを活用する支援学校」をめざす

思斉支援学校のホームページには、「日本でもっともタブレットを活用している支援学校をめざす」と書かれています。

紙野 教頭
― 文部科学省のDX事業部に問い合わせたところ、知的障がいの生徒を対象とした支援学校で、タブレットを活用した授業がスタンダードとなっている学校はないとの回答を得ています。じゃあ、そこをクリアすれば日本一になれるじゃないかと考えました。では、何をもって日本一とするのか。基準自体はまだないらしいので、だったら自分たちで作ってしまおうかというわけです。

「Apple Distinguished School」という、Apple社が先進的な学びに取り組む教育機関と認定する制度があり、日本の支援学校で取得している学校は現在のところありません。目に見えるわかりやすい形として、まずはそれを取得したいと考えています。

しかしながら、大阪の支援学校は学区制のため「思斉支援学校の取り組みがすばらしい」と保護者や子どもが感じたとしても、学区外だと通学できないという問題があります。

松本 氏
― 実際問題として、現状は思斉支援学校の取り組みで一杯いっぱいの状態です。ただ、将来的にはモデルケースとして府立の支援学校へ横展開できればと思っています。

紙野 教頭
― もちろん、思斉支援学校だけ先に進めばOKといった、狭い話で進めているつもりはありません。大阪府の教育センターで発表したり、ソフトバンクのイベントに出させていただいたりと、当校の取り組みはすべてオープンにして伝えています。そういった意味では、当校のノウハウをまず大阪府内全域に広げられるようにしたいですね。

紙野教頭は、「レインボープロジェクトの終了時には日本一どころか世界一を本気でめざす」と意気込みます。

紙野 教頭
― 何かに取り組むときは、周囲を巻き込む力と熱量が大事です。現在プロジェクトチームは6名ですが、メンバーが100%以上の熱量をもって取り組めば、周囲の教職員にもその熱量が伝わるものです。そして、積極的に取り組んでいると、不思議と追い風が吹いてうまくまわるようになる。今はお祭り状態で勢いよく進んでいますが、プロジェクトが終わっても日常化させるにはどうすればよいか考えるというのが、次のステップになります。

大阪府立思斉支援学校では、来年度以降は高等部すべての生徒に独自のiPadを導入、mobiconnectを活用したさらなる展開を進めていくとしています。

( 取材日:2023年11月)